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無罪モラトリアム

Originally released: 1999
ジャケット画像募集中(200×200) Personnel:
椎名"サディスト"林檎姫
西川"スウィッチ"進殿下
亀田"マン・シンタン"誠治師匠
河村"キリスト"智康係長
鈴木"ケーレン"怜史見切り発車

No曲名実演時間
1正しい街絶倫ヘクトパスカル3'53
2歌舞伎町の女王絶倫ヘクトパスカル2'53
3丸の内サディスティック絶叫ソルフェージュ3'56
4幸福論(悦楽編)絶倫ヘクトパスカル2'58
5茜さす 帰路照らされど・・・桃色スパナ4'07
6シドと白昼夢絶倫ヘクトパスカル4'03
7積み木遊び桃色スパナ3'24
8ここでキスして。絶倫ヘクトパスカル4'20
9同じ夜桃色スパナ3'38
10警告絶倫ヘクトパスカル4'05
11モルヒネ桃色スパナ3'42
全作詞・作曲:椎名林檎 / 全編曲:亀田誠治

概論

馴れ初め

俗世間と中途半端な距離を置いて生活しているので「歌舞伎町の女王」など知る由もなく、「ここでキスして。」も、強烈な自己顕示を見せつける人だなあ、程度。若干の興味は持ちつつ、まあレンタルが7泊解禁になってから聴けばいいや、程度だったがある曲を聴いてその考えは一変した。

 ともさかりえの「カプチーノ」だ。この曲のあまりに見事なブリッジに一発でぶちのめされ、本家椎名嬢のアルバムを一刻も早く聴きたくなってしまう。早速ツタヤに走り借りて聴く。買うかボケ(暴言。でも違反MP3で「ミュージシャンの生活を破壊する(坂本龍一談)」よりはまだまとも)。

椎名林檎かく語りき

 第一印象。「正しい街」でまず閃光一撃叩き伏せられてずりずりと漆黒の巣窟へ引きずり込まれた。

 第二印象。変化自在の歌い回しと、百花繚乱の台詞回しにただただ感服。

 第三印象。基本はロックでそこに(知識不足で適切な分類用語を言えない)'90年代らしい色々な要素を盛り込んだ感じ。参加しているのはプロのセッションミュージシャンなのだろう、よぼよぼの自称ロックバンドどもより遥かにロックで心地よい。そして惚れ惚れして聴いていたドラムのほとんどが歌手本人だと知って腰を抜かす。

 それ以降。荒削り。若い。最初の驚きに慣れてしまうと後半、ついその辺りの雑誌を手にとって眺めたりしてしまう。

各論

正しい街

 久々に韻を聞いた。それだけですっかり感心していた上に、「カプチーノ」で見せつけられた一撃必殺問答無用橋を「どうして未だに・・・」という歌詞で怯んだ好きに叩き込まれては一溜まりもない。成すすべもなく仰け反り捨て台詞も吐けず見事に絶命。死体はそのまま処理施設に運ばれ不思議な料理にされてしまうのでした。毎回、今度ははその手には乗らないぜ、と身構えながら聞くのだが、恐怖の三弾逆スライド方式の前にいつもぞくぞくしてしまうのです。悔しいけれど、Led Zeppelinの「BBC Sessions」収録の「移民の歌」と同じくらい攻撃力があるのです。投了。

歌舞伎町の女王

 歌舞伎町といわれてもぴんと来ない。目的の店が見つからずにさまよい歩いていると迷い込む程度だから。夜に訪れると一生佇んで見ていたいほど不思議な雰囲気に満ちているが。
 そして見事なまでの語呂の良さに感服するのでした。随所で聞こえる巻き舌が妙にこの曲の説得力(何を説得したいのか分からないが)を増している。

丸の内サディスティック

 何なんだろう、曲全体に漂うこの「臭さ」は。「リッケン620」「マーシャル」「ラット」「ベンジー」「グレッチ」そんな言葉の数々に煙草の煙が充満したような感覚を覚えるからだろうか。

幸福論

 これはまた結構なお手前で。
 「21世紀の精神異常者」ばりに歪んだヴォーカル。そういえば最近は「21世紀のスキッツォイドマン」と表記される。たぶん「精神異常者」がA級放送禁止用語だからなのだろうけど、同等の意味のカタカナ表記に置き換えれば、それで堂々と公式の場で言えるのだから、この国の言論統制は破綻している。「目の不自由な人」と換言すれば、どんなに心に悪意を持っていても「ピー」とはならない。一切差別する心が無くても「めくら」と言ってしまえば謝罪させられる。如何なものか。
 閑話休題で御座います。
 気分はすっかりMarylin Mansonです。ひょろひょろで下手糞なDir en grayの「残」を張り手でなぎ倒すかのようです。ブックレットのこのページもmechanical animalsだと断言して良いでしょう。

茜さす 帰路照らされど・・・

 「幸福論」のはつらつとした暴力性と対称的に大人びた曲。非歌詞部分のアドリブに実力の高さを感じる。「ファズの利いたベース」おう、Jon Wettonか。夕焼けに「Starless」を聴けば確かに泣けるぜ。と自分の世界へトリップ。んで、終結部分のドラムが見事、と。

シドと白昼夢

 「シドと白昼夢」なんて言葉を見てしまえばシド・バレットの名が浮かんでくるけど、「ここでキスして。」に「シド・ビシャス」とあるからそっちなのだろう。Final Fantasyを連想した人には用がないので消えてもらいましょう。

 前半の混沌とした部分とサビの「歌舞伎町」な部分の対比。誉めるほどではない。
 ジャニス・イアンは知らない人だな。

積み木遊び

 こうでなくては倒錯具合。美味なるものこそ音であれ。

 「YOU KNOW HOW MUCH I CARE IT.」->「嗚呼 やられたり やられたり」、「お相手つかまりませう」->「I REALLY REALLY DO」という言語感覚が誰にも真似できない世界観を創り出しているのだろう。見上げる程立派で、頚がへし折れる。絶好のタイミングで林檎流抱腹絶倒変化自在橋の片鱗がまた現れて飽きさせない。

ここでキスして。

 駄作とまでは言えないけれど、全体の流れの中から明らかに浮いた曲。目論見が鼻からシングルだったのだろう。ヒット曲をアルバムに入れない大胆行動も、このアルバムを聴いてしまえば十分許せるが。

 同じテンポで弦楽合奏に編曲すれば面白そうだ。ノリが他に比べて弱く、旋律も器楽演奏向きに感じられる。

 シド・ヴィシャスというと、伝説的深夜番組「金髪先生」を思い出す。第三期(記憶は曖昧)の最初に紹介されたのがシド・ヴィシャスで、以降同番組の標語が「ボーイズ・ビー・シド・ヴィシャス(勿論英語表記)」として常に掲げられていた。知りたければセックス・ピストルズもしくはパンク・ロック系のホームページを渡り歩いて下さい。

 「ここでキスして。」という題名のドラマが放送されている。そっちは単なる伊藤裕子好きで時々見ている。あくまでも時々なので物語は全く分からない。

同じ夜

 ここまで来ると、雑誌を手に取ってしまう確率が相当高くなる。
 「君」に向けた歌詞をきかせる類のバラードでは、小谷美沙子の前に全てが色褪せてしまうため、退屈で評価は低い。

警告

 ここで普通のロックに戻るので一安心。ここで椎名流傍若無人強行突破橋を否が応でも期待し、今か今かと待ち望んでしまうのが悲しき性。ものすごい勢いで肩すかしを喰らいそのまま車道に飛び出し路面清掃車にひき殺されてしまう。このアルバムに満足できない理由だ。そうやってじらして焦らさないで頂戴なあ。

モルヒネ

 特に言うことはありません。

あとがき

 こうやって改めて一曲づつ聴いてみると、「ご贔屓さん」入りは少々はやまったかな、と思ってしまう。我侭な言い分だが、「正しい街」や「カプチーノ」の必殺技をもう一度喰らいたかった。不思議なことに次こそは次こそは、とこのアルバムの中で思っていたことが、次のシングルこそは、次のアルバムこそは、と外に向いてしまう。やっぱり思う壷なのだろうか。もしくは思う壷な状況を自作して一人で演じて楽しんでいるだけなのだろうか。どちらにしろ次回作に期待する気持ちは変わらない。困ったものだ。



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(1999/04/10)


[椎名林檎]
[邦楽編]
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